“ルースカヤ”って知ってますか?
“ルースカヤ”とは、今では“ロシアの踊り”として知られていますね。バレエ『白鳥の湖』の第3幕、各国のキャラクターダンスが踊られる華やかなシーンに入る場合もありますが、同じ第3幕でオディールのソロとして踊られる場合もあります。今では、ロシア以外のバレエ団ではほとんど踊られなくなってしまった“ルースカヤ”ですが、ロシア独特の異国情緒が感じられるゆったりとした華麗なダンスです。
ここでは、“ルースカヤ”が『白鳥の湖』のオデットのソロダンスとして作られた背景や、3人の著名なバレエダンサーが踊る、それぞれの個性が溢れる美しい踊りの動画を取り上げ、“ルースカヤ”の動き特徴や衣装についてもご紹介していきます。
ロシア以外のバレエ団ではほとんど踊られなくなってしまった“ルースカヤ”ですが、ロシアの異国情緒が感じられるとても貴重なダンスです。
バレエ『白鳥の湖』ルースカヤ(ロシアの踊り)の背景
元々、ルースカヤは、チャイコフスキーが作曲した一連のキャラクターダンスには含まれていなかったそうなのですが、当時のレイジンゲルという振付家の要請でチャイコフスキーが書き下ろし、初演の際に踊られました。どうやら、主役のプリマ(ポリーナ・カルパコワ)がテクニック的に弱い人だったようで、チャイコフスキーが彼女のためにこの曲を作曲して、黒鳥オディールの見せ場として挿入したのだそうです。そういえばなんとなく、怪しく謎めいた雰囲気が感じられる曲調になっています。チャイコフスキー自身もこの曲をとても気に入っていて、「12の中級程度のピアノ曲集」作品40の10曲目にも加えているそうですよ。
とはいえ、今では、プリマであれば誰でも黒鳥のパ・ド・ドゥを華麗に踊れますから、わざわざ黒鳥オディールに別の見せ場をつくる必要もないですよね。そんなわけで、オディール役を務めるダンサーのポワントテクニックが高まるに連れて、オディールの見せ場は、“ルースカヤ”ではなく、“ロシアの踊り”として、キャラクターダンスの1つに取り入れられているわけです。そのようになったのは、ソ連時代に、ロシアのバレエ団が“ロシアの踊り”として復活させたからなのですが、元々は、“ルースカヤ”はキャラクターダンスとしての曲として作られたわけではなかったですし、流れ的にも他のキャラクターダンスの曲とはあまりマッチしないようで、残念なことに今ではロシア以外の国ではあまり踊られなくなってしまいました。まぁ、“ロシアの踊り”に対して感じる思いも、ロシア人とそれ以外の国の人々とは異なるのでしょうね。
それでも、この“ルースカヤ”の曲と動きには、やはり他のキャラクターダンスの曲にはない特有の魅力があります。だからこそ、“ロシアの踊り”として復活したのでしょう。次に、その魅力について動画をみながら味わっていただきたいと思います。
バレエ『白鳥の湖』ルースカヤの動きの特徴
それではここで、18世紀からロシアバレエをリードしてきた、ロシアでもっとも伝統あるバレエ団であるマリインスキー・バレエ団と、ロシアの首都モスクワにある世界屈指のカンパニー、ボリショイ・バレエ団の5人のダンサーによるバレエ『白鳥の湖』“ルースカヤ”の動画をもとに、その魅力的な踊りの特徴について詳しくみていきましょう。
①ウリヤーナ・ロパートキナ(マリインスキー・バレエ)
ウリヤーナ・ロパートキナは、マリインスキー・バレエ団の頂点に立ち続けるプリマ・バレリーナ。ロパートキナの踊りの特徴は、何よりもポーズの完璧なまでの美しさであると評されます。無駄を一切削ぎ落としたようなその踊りは、深い精神性を感じさせます。音楽性にも非常に優れ、「音楽が私の身体を通して自分自身を表現したいと思っているように感じる。つまり、私の身体もまた楽器なんです。もうひとつの音を奏でる楽器です」と語っています。
動画をみると、まさに彼女の言葉のとおり、一音一音が彼女のからだに染み渡るように繊細に表現されているのがわかりますね。まるで音が喜んでいるようにさえ感じます。前半の優しくたおやかで一切のスキや無駄のない洗練された雰囲気から、凛とした強さを感じるリズミカルな表現への後半変化も見応えがありますね。円を描きながらの連続ピケターンも見事でした。完璧な容姿とその佇まい、そして心が洗われるような洗練された音楽的表現のセンスと正確なテクニック… 私はすっかり魅了されてしまいました!
②オルガ・チェンチコワ(キーロフ・バレエ)
「氷のダンサー」とも評されたオルガ・チェンチコワはペルミ・バレエから1977年にヴィノグラドフのたっての呼びかけにキーロフ・バレエ(ソビエト連邦時代のマリインスキー・バレエの名称)に移籍しました。この時に、「ルースカヤ(ロシアの踊り)」と「パキータ」(ミンクス)からのグラン・パ・ダクションを踊ったのです。
後半の見せ場の部分は、速くて細やかな縦横移動のパ・ド・ブレと、バロネとパ・ド・ブレ・ターンの連続によって、華やかに表現されていますね!
③ナタリヤ・オシポワ(ボリショイ・バレエ)
エネルギーに満ちた踊りで観客を熱狂させる新時代のバレリーナ。軸のぶれない急速回転や男性と同じ高さまで到達する跳躍など、驚異的なテクニックを軽々ときめ、演技力もまた高く評価されている注目のバレリーナです。
この動画をみると、ダンサーと衣装が変わるだけで、こんなにも作品が別物にも見えるのか!!!と驚きますね!(◎_◎;)✨キラキラと輝くアクアブルーの衣装と白いブーツに身を包み、終始明るい表情で軽やかに舞う姿は、まるで妖精のような、道化師のような、おてんば娘のような… 如何様にもイメージさせ観る者の想像力をかきたてる踊りですね。後半の見せ場では、細かい足さばきが見事ですし、最後の連続ターンは、真上から撮っている部分をみるとわかりますが、軸がまったくブレません。テクニックの高さに加え、観る者を彼女の中の果てしなく自由な世界へと誘う豊かな表現力は圧巻です!
④エカチェリーナ・マクシーモワ(ボリショイ・バレエ)
彼女は、ボリショイ・バレエのトップバレリーナで、「バレエにおけるオードリー・ヘップバーン」と呼ばれることがあります。「登場するだけで観客を魅了してしまう」という意味なのでしょう。ヘップバーンとの違いは、登場した後の演技で、観客の魂を奪い取ってしまうことです。「観客に媚を売りすぎる」と批判されることもあったようですが、暗く憂鬱な生活を強いられていた冷戦時代のソ連国民にとって、彼女が放つ光は(マイヤ・プリセツカヤの光と並んで)、絶対に必要なものだったのでしょうね。
この動画からも、彼女から放たれる光のオーラが絶対的なものであったことがみてとれますね。前半の最後に持っていた布を落とし、なにかを吹っ切ったかのように、細かい足さばきと、ピケターンやシェネによる連続ターンでダイナミックに表現していますね。みていて、とても晴れやかな心持ちになります。
⑤マリーナ・ジャチコーワ(ボリショイ・バレエ)
1989年に上演された、ユーリー・グリゴローヴィチ版『白鳥の湖』。
湖畔で、悪魔ロットバルトがジークフリート王子に影のように付きまとい、ユニゾンで踊る所が、オデットとの出会いからすでに全てが仕組まれているようで、魔力の強さを窺わせます。花嫁がそれぞれのお国振りを表した踊りを披露する場面の1曲として、「ルースカヤ(ロシアの踊り)」が踊られました。
ジャチコーワは「ロシアの姫」の役で、とても高貴な雰囲気ですね。この作品では、姫を盛り立てる6人の下女もとても美しく、華やかです。また、衣装もこの作品だけはロマンティックチュチュになっていますね。可憐らしさと優雅さが相まって、彼女にしか表現しえない独特の雰囲気がなんとも魅力的です。
バレエ『白鳥の湖』ルースカヤの衣装
これまでの5つの動画をみて、同じ作品でも、ダンサーと衣装が変わることで、まったく異なるイメージになることを感じられたかと思います。
最後に、バレエ『白鳥の湖』ルースカヤの衣装について、国内の2つの衣装メーカーの衣装を取り上げ、その特徴についてまとめてみました。
⇨HPはこちら
: サーモンピンクで、胸飾りの下のやや高めの位置からスカートになっています。可愛らしい印象ですね。
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: 袖先が末広がりになっていて、胸飾りの下のやや高めの位置からスカートになっています。白地に金色の刺繍が洗練されていて美しいです。天使のようですね。
: 袖の襞が可愛らしいですね。こちらも、胸飾りの下の少し高めの位置からスカートやななっています。全体的にはシンプルなつくりでありながら、胸にはゴージャスな飾りが厳かに光を放ち、気品のある華やかさが感じられます。
: カラーが入るとよりいっそう華やかになりますね。ミント×ピンク、黄×紫の二色展開です。ちょっと大人っぽい“キャンディの精”なんかの役にもぴったりかも!?
今度、ルースカヤを舞台で観る際には、ぜひダンサーの動きから感じられるイメージや、華やかな衣装デザインを楽しみながらご覧ください!
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