子どもがバレエを始めるのはいつからがいいの?


キラキラ輝くピンクのサテンシューズに真っ白なチュチュを身にまといステージの上を優雅に舞うバレリーナ…

女の子の“永遠の憧れ”とも言えるバレエ。女の子なら一度は習ってみたい習い事のひとつですよね。最近では、2歳や3歳で始められる方も増えてきていますが、一方、外国のバレエ学校では入学は7〜10歳からと決められているところもあります。

 では、子どもがバレエを始めるのに最も適切なのはいつからなのでしょうか?

あの有名なバレリーナはいつからバレエを始めたの?

吉田都

バレエを習いはじめるきっかけは、綺麗なチュチュを着てみたいという憧れや、姿勢を良くしたいといった願望、あるいは兄弟や友達の影響など様々ですね。また、はじめからプロフェッショナルのバレエダンサーを目指して習い始める子もいれば、趣味や教養のために習う子もいるわけで、習い始める目的もまた多様であるといえます。

ではまず、何人かの有名なバレエダンサーを例に挙げ、バレエを始めることになったきっかけとその年齢についてみてみましょう。

    名前  バレエを始めた年齢        きっかけ
森下洋子 3歳 幼少時体が弱く体力をつけるため
熊川哲也 10歳 従兄(バレエダンサー)の影響
吉田都 9歳 友達の影響
草刈民代 8歳 フィギュアスケートのジャネット・リン選手の影響
上野水香 5歳 母親の勧め
金森穣 6歳 父親(ダンサー)の影響
米倉涼子 5歳 不明
神田うの 5歳 不明
菅井円加 3歳 姉の影響
シルヴィ・ギエム 12歳 パリ・オペラ座を観て体操から転身

 

このように、これらのプロのバレエダンサーにおいても、バレエを始めた年齢やそのきっかけは多様であることがわかりますね。早期英才教育が話題になっている昨今、バレエも例外ではなく、一部では「2〜3歳から始めるのが良い」と言われていますが、実際にはそこに具体的な根拠はなく、そのくらいの年齢でバレエを始め輝かしい60年間の舞踊活動の末に文化功労賞を受賞した森下洋子さんや、2012年のローザンヌ国際バレエコンクールで見事優勝した菅井円加さんのような希少な一例がひとり歩きしてしまっているのです。実際のバレエ教室では4歳以上を対象としているところが多いですし、上記の表からも、上野水香さん、金森穣さん、米倉凉子さん、神田うのさんのように、バレエを習い始めるタイミングとして5歳以上が多いことが見て取れます。

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意外にも、草刈民代さん、熊川哲也さん、吉田都さんは遅めのスタートですね。熊川哲也さんは10歳の時にバレエダンサーであった従兄の影響でバレエを始めます。小さい時から始めた子に比べると柔軟性に欠けるので、人の何十倍も努力してバレエに打ち込んだそうです。その結果、英国ロイヤルバレエスクールへの留学やローザンヌ国際バレエコンクールでの優勝を経て、東洋人初の英国ロイヤルバレエプリンシパルにまで駆け上がり、最終的には自身のカンパニーをもつまでに至りました。吉田都さんもまた、8歳と遅めのスタートではありましたが、夢中で訓練を積み重ねた結果、どこまでも精確で強靭なテクニックと日本人特有の透明感溢れる清らかさが世界に認められ、熊川さんと同様のコンクールでスカラシップを得て留学後、英国ロイヤルバレエ団のプリンシパルとして長く活躍することになります。熊川さんや吉田さんの場合、かなり特殊な才能を持っていたことが想像されますが、バレエへの深い愛情と努力によってこそその才能が花開かれたのであって、その意味ではバレエを始める時期が遅くてもバレエダンサーとして十分に成功できることの証となったということができるでしょう。

また、現代最高のスーパーバレリーナであるシルヴィ・ギエムは、2015年の大晦日、東急シルベスターコンサートで自身の代表作である「ボレロ」を踊り、日本中に感動の渦を巻き起こし、それを最後に引退表明をして大変な話題になりましたね。彼女の場合はバレエを始めた時期は12歳と遅かったのですが、それ以前は体操選手としてオリンピック候補になるほどの類い稀な身体能力があったので、その能力を活かすことでバレエ界の逸材として世界中で活躍するバレエダンサーになったのです。

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これらのことから、著名なバレエダンサーを例にとってみても、小学校に入学する5、6歳でバレエを始めるのが一般的であるといえますが、バレエへの愛情と弛まぬ努力によっては、あるいは、他の芸術やスポーツによって身体能力が特に優れている場合、小学校の高学年以上になってからバレエを始めたとしてもその才能が後になって十分に開かれる可能性があるということができるでしょう。

幼少期からバレエを始めるとどんなメリットがあるの?

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私のバレエスタジオでも、子どもがバレエを始めるのはいつからがいいのかとよく聞かれます。「お子様は今何歳ですか?」とおたずねすると、「まだおなかのなかです」なんていうことも!それはちょっと早いのでは…(^^;; と思ってしまいますが、熱心に早期レッスンを希望するお母様は実にたくさんいらっしゃいます。

たしかに、レッスンを始めるのに早過ぎるということはありません。幼い子どもでも、バレエへの憧れが強く、お母さんに甘えることなく、きちんとレッスンに集中できる子もいます。また、まだお母さんから離れることができない子でも、本人が嫌がらずに楽しく通えて、他の生徒さんたちに迷惑になるようなことがなければ良いのです。最近では、お母さんと一緒にリズミカルに踊ったりストレッチをしたりするというような、お母さんと幼い子どものためのプレバレエクラスが開講されているスタジオも増えてきていますので、そうしたクラスを探して受講してみるのもいいですね。

では、早くからバレエのレッスンを始めると、どんなメリットがあるのでしょうか。

まず一つめに、リズム感や調整力をつけることができます。音に合わせて体を動かすというのは、絵を書く、楽器を奏でるといった行為よりはるかに原始的な人間の本能に近い行為ですから、幼い子どもでも、楽しい音楽に合わせて走ったり跳んだり回ったりしながら、ごく自然にリズム感や調整力を養うことができるのです。

二つめに、姿勢が良くなり、からだが柔らかくなります。子どもの骨には軟骨が多いため、幼い時期に正しい姿勢を覚えて背骨のラインを整えれば、大人になってからもその姿勢を維持できる可能性が高くなりますね。

そして三つめに、周りの人に対する礼儀やマナー、協調性を身につけることができるようになります。私も、幼い子どものクラスだからこそこの点は特に大切だと感じています。先生の目をみてお話が聞けること、大きな声できちんとご挨拶ができること、お友達と呼吸を合わせて互いに相手を思いやりながら踊れること、こうしたことは、人が人として生きていく上で最も大切なことですよね。「三つ子の魂、百まで」という言葉がありますが、これらのことを、幼いうちにバレエを通して自然に習得することができれば、生涯その子の行動の原点になることでしょう。

このように、バレエを早くはじめることによって、身体的にも精神的にも様々なメリットがあります。

子供ドレス

幼少期からバレエを始めることのデメリットは?

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これまで、バレエを早く始めることのメリットについてだけお話しましたが、その反面、注意しなければならないデメリットもいくつかあリます。

一つめに、幼児期の子どもは発育段階によってできることとできないことがありますが、万が一先生がその発育段階をしっかりと把握せずに、無理な動きばかりを強いるようなことがあった場合、子どもはバレエ自体が嫌になって自信をなくしてしまう可能性があります。例えば、おぼつかないながらも歩いたり走ったりができるようになった2歳の子どもにルルヴェ(背伸びをしてかかとが上がった状態)を上手にやらせるのは難しいですし、やっと片足で立ったり両足でのジャンプができるようになった3歳の子どもにスキップを教えてもなかなか厳しいでしょう。スキップができるようになってくるのは4歳後半頃からですが、「右へスキップ4つ!」と口で言っても、左右の区別がついていない4歳児にはわかりません。先生が率先してからだで見本を見せて、一緒にスキップしてあげる必要があります。したがって、早い時期からバレエを習う場合には、先生が目の前の幼児の発育状況をよくみて無理なく適切な指導を行っているか、子ども自身が楽しそうにレッスンを受けているかをよくみる必要があります。

また、幼児期の子どもはとても創造的で常にイメージの世界と現実の世界を自由に行き来して、心に思い浮かんだことや目に入ったものをすぐに自然にからだで表現しますから、先生はその「自由な世界」を引き出し、さらに豊かな表現になるように導いてあげる必要があります。風に揺れて舞い落ちる木の葉の真似をしてヒラヒラ回りながら遊んでいる子や、空想の世界で闘いごっこをしている子、飛行機になって走り回る子・・・ 公園でよく見かけませんか? しかし、先生が子どものイメージの世界を無視して、バレエの基本ばかりを教え込むような場合、子どもは決められた動きばかりを強いられて、その子が本来持っているはずの豊かな創造的表現が押し殺されてしまうことになるのです。これが二つめの注意すべき点です。言われたことを正しくできる能力は確かに必要なことではありますが、幼い頃からその能力ばかりを身につけてしまうと、やがてロボットのような人間になってしまいますよね。ですから、先生やお母さんは、レッスン時の子どもの様子をよくみて、その子がその子らしくその場にいて自分を表現できているかどうか、よくみてあげることが大切ですね。

そして三つめに、先程子どもの骨はまだ軟骨部分が多いことについて触れましたが、それはメリットにもなりますが、逆にデメリットにもなり得るのです。軟骨部分が多い子どもの骨は非常に弱く、ちょっとした力や動作の繰り返しによって、剥離骨折を起こしたり、変形したりするので、無理な動きをさせないように注意する必要があります。体操の選手や幼い頃からバレエの特訓をしてきた方に身長が低めの方が多いのはこのためだろうと考えられます。幼いうちから無理な筋力トレーニングをしたり、衝撃の大きなジャンプや無理な動作を繰り返していると、骨の自然な成長が阻まれてしまうようです。ですから、幼児期のうちは、痛みが出るほどアン・ドウオール(脚を外側に開くこと)を守らせ脚を高く上げさせることよりも、子どもがイキイキと楽しく表現できていることの方が大切なのです。厳格にアン・ドウオールを守らせることで知られるパリ・オペラ座の先生でさえ、そのようなレッスンは8才を過ぎてからであり、幼児期にはそんな厳格さは求めないと言っています。

まとめ 〜子どもはバレエをいつから始めるべきか

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これまで、子どもが幼少期からバレエを始めることのメリットとデメリットについていろいろとお話してきましたが、最終的な結論としては、「子ども本人がバレエを習いたい意志をもった時期がベスト」であると考えます。いやでいやでしかたないバレエを母親の希望だけで続けてきた子どもと、学齢期やそれ以降でも、どこかでバレエのステージを見て、雷に打たれたように感銘し、私も踊ってみたいと切望してバレエを始めた子どもとでは、どちらがバレエをものにすることができるでしょうか。そのような強い意志の力こそが、厳しい訓練に耐え抜き、観る人に感動を与えるバレエダンサーへと夢の階段を駆け上がることができるのだと私は思うのです。もちろん、プロフェッショナルを目指すのであれば、まだ骨格の柔らかい幼児期〜9、10歳頃までに習い始めることをお勧めはします。

でも、バレエを習うときに、プロフェッショナルなバレエダンサーになりたいというような明確な目的を持って始めるというよりは、「踊りたい!」という衝動や、「あのお姉さんみたいに素敵に踊れるようになりたい!」というような憧れの気持ちから始めることが多いのではないでしょうか。「私もやってみたい!」と子どもの目がキラキラと輝いた瞬間、その時こそ、バレエを始める一番のタイミングなのです。バレエは、for allに開かれた、多様な価値のある芸術です。子どもはバレエを通して心もからだも研ぎ澄まされ、必ずや豊かな価値を見出すことでしょう。

【参考文献】

蘆田ひろみ著「バレリーナのヘルスケア」新書館(2014)


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